weaveの拠点である石川県小松市の夕焼けの綺麗な安宅(あたか)の海を前に、2018年にできたカフェ、ATAKA CAFE。安宅漁港で揚がる地元の魚をオリジナルのアイディアを加えたお料理は、人気があり weave のスタッフも大ファンです。そんな ATAKA CAFE でお料理を作るのが由岐中亮介シェフ。お店ができて2年、地域の食文化をどのように深掘り自分なりの解釈を加えて提案しているのか、仕事だけではなくもはやライフスタイルとも呼ぶべき彼の料理への姿勢に迫りました。
現地に入ってこそ、少しずつ掘り当てることができる地域の食材
−− オープン当初から安宅という土地柄、新鮮なお魚を使ったメニューが多いですが、ブイヤベースヌードルなど、この地域の食文化の取り入れ方がユニークです。食材のリサーチやメニュー発想はどんな風にされているのですか。
「ブイヤベースヌードルは、小松のソウルフードとも言える塩焼きそばの生麺を使っているんだけれど、まずはその土地にある食材だけど、その土地にないものをやろうという気持ちがあってやっているかな。
あちこち探し歩いたというよりは、最初は地元の方たちのアドバイスもいただいて食材を紹介していただいて繋がっていった感じですね。魚とかは突撃していったところもあるけどね。」
−− 小松の食材の第一印象はどんな感じでしたか?
「使っているものに関しては、作り手の方もここ1〜2年でもどんどんレベルアップしていっていて結果的にすごくいい状態ものを使えていると思いますね。
でも、小松に来る前に、リサーチしようと思っても情報になかなかアクセスできなかったというのはすごく感じました。実はいいものが眠っているけど、こっちに来るまでは全然わからなかった。こっちの人を介して紹介してもらったりしたらどんどん色々出てくる、という感じで(笑)
そもそも外に出すほどの物量もないし、地元消費型みたいなところはあると思います。だからこそ、来てみて食べてっていうのが一番理にかなっている。
住んで食べてみれば気づくけれど美味しいよね、圧倒的な鮮度だとは思うけれど。
スピード感とか、ー見するとこちらの方の人柄はゆっくりしているように見えるけれど、そういうところの速さは目を見張るものがあると思いますね。魚なんか特に、こんなこと東京じゃありえないよね。朝とれたのが昼には来てるんだから。
もともとATAKA CEFE は市の施設に入っているから、最初は僕が一人で来てやっていて、誰だろう?という感じだったけど、今となっては安宅のまちの人たちも応援してくれる人が増えてきた。やっぱり1年とかじゃわからないこともあるし、近くに住んで、毎日やっているからこそ少しずつ味方が増えていったというのもあると思ういますね。」
−− オープン当初から通っていますが、半年ほど経って味付けが大きく変わったように感じていました。より北陸の素材の味を引き出すような調理法になったように感じています。素材の勉強をしながら試行錯誤していたのだと思われますが、東京と比べ素材の面での違いを教えてください。
「うん、たぶん、全然違うものを作っていると思います。食材もよりいいものを発見していって、最初と全く違うものを使ってるところもあるし。
本当にいい食材を使えてると思う。東京の料理人が知ったら嫉妬しちゃうんじゃないかな。
最近なんかも、北潟湖の天然ウナギを見つけて漁師さんのところに突撃していったんだけれど、やっぱり関係性ができてきて、だんだんと美味しいものを教えてくれるようになったんだ。東京だと、ある程度は仕入れ先のお店との関係性とかも重要だけれど、みんな一定のルールのなかでビジネスしてるからいくら払えばどんなものが手に入るのか、ある程度は予測できる。でも、こっちではやっぱり信頼関係がより重要になってくるんじゃないかな。
最初の半年くらいは忙しくてペースが掴めなくて余裕がなかったけれど、夏を超えて少し時間ができてきて、こうやって食材も人に聞くだけじゃなくて自分でも色々探し求めることができるようになったり、手に入った食材をどうすればさらに美味しくなるか、色々実験しだしたよね。調味料とかも作り始めたりとか、魚の食べ方も色々実験し始めて。
あとは、僕は地元の人やスタッフとかとも色々コミュニケーションを取ってインスピレーションをもらいながらやっていくところがあるから、それで少しずつ変化しているのもあるかもね。」
”いいもの”を暮らしに取り入れることに、無理がない
−− ATAKA CAFEはじめて2年経ったところですが、東京からここに来てからの発見やご自身の変化などはありましたか?料理だけでなく生活面なども含めて。
「生活は180°変わったと思いますね。東京にいるときは夜な夜な遊んでたけれど、庭に野菜植えて朝から雑草むしってるんだもん(笑)。東京の僕を知っている人が見たらドン引きするかもしれない。あの人、人が変わっちゃったんじゃない?って。
やってることはそんなに変わらない気もするんだけれど、健康的になったよね。原宿・表参道にいたときのライフスタイルはもう、やばかったよね。
ピークというか、末期症状…(笑)
どんどん面白い子も周りに集まってきていたし、相乗効果で夜遊びもどんどん加速して…。でも、ひとりでこういうところにポーンと来たのも、ある意味で良い変化だったと思う。それでまた料理も変化しているのだとすれば、こういう機会をいただいてありがたいです。」
−− やはりライフスタイルの変化による料理の変化も大きい?
「ジャンクっぽいものを自然と食べなくなったかもね。東京にいたときはぜんぜんそれらを否定してなかったし、美味しければ別に、変なオーガニック信仰とかもなくて。
僕は、うまいものが正義みたいな、料理人あるあるなのかな…。でもそこも考え方が少しずつ変わってきて、やっぱりより自然な状態に近いものの方が美味しいと感じる様になった。小松にいると、ナチュラルなものが新鮮で美味しいものが手に入るからだと思うけれど。
ナチュラルでも、体が喜ばなければ意味がないし、美味しくなければならないと思ってて。それを両立するのって結構難しいんだよね。東京だとどんどん値段も高くなっちゃうし。あとは、出どころがわかってるよね、自然と。
意識しなくても自然と知ってる人が作っている美味しいものを手軽に使うことができる。
東京にいるときは、キレイ事言ったって、お腹が減ってたりお金がなければジャンクなものも食べることだってあるよね、って思ってた。でも、地方だとひょっとしたらそんなにお金がなくてもそんなもの食べなくても全然いけるな、と。身近に美味しくて手頃な食材がいっぱいあるし、食糧難とか東京から比べたら起こりそうもないよね。
魚とか鮮度の高いものも加工しながらうまく回していけば食べれるし、減ったとしても人口減るんだからそんなに問題なさそうな気すらする。だから今の子たちはずっといいもの食べ続けられる可能性があると思います。ちゃんと地元のものを料理する文化が良い形で若い人に繋がっていけばだけれどね。
だから今、うちの子も実験的にこの辺のものとか知り合いが作っているものばかり食べさせてどんな子に育つか、実験気味にやっています。」
作り手と使い手のバランス感覚
−− 本当に地元のものをこだわって使うと、天候などの影響を受けて納品が安定しないこともあると思います。その日にある食材を、どんな風に工夫してメニューにしていますか。
「やっぱり生産者と直接やりとりしていると生産者も人だから何回か崩れることもあるし、色々コントロールはしていかないとね。普通のお店ってある程度準備していたりするとお客様が来る限りは意地でも作って限界なくやって売上を求めに行っていたけど、でも、ここは限界があるから。生産者側からストップがかかることもあるし。
僕、逆にそれがいいなあと思っていて。
生産者側もある程度は頑張ってくれるんだけれど、人がやってることだからパンクはするよね。」
−− ある分しかないというか。
「東京にいたときも不定期で知人から大量の魚が送られてきたりしてたから慣れているところもあったけれど、こっちでは生産者にしてもお客さんにしてももっと波があるからやっぱりバランスを取りながら使い方とかをコントロールはしていかないといけない。
でも、それは僕がいいと思ってそのスタイルでやっているから、そこへの責任もあると思ってる。
どこでも出せるものを出しても意味がないというか。やっぱり安宅に来たら、僕やATAKA CAFEというフィルターを通して安宅でしか食べられないものを食べてもらいたい。それを可能にするためのコントロールは常々考えているよね。会社もそれをやらせてくれてるからありがたいんだけれど。」
−− ATAKA CAFE に行くと生産者の方が直接納品に来られているところをしばしば目にします。生産者の方とのコミュニケーションが密だからこそ予測してっていうのもあるんですか?
「そうそう。やっぱりそれは大事だよね。
あ、天気の影響受けてしいたけ大量発生したな、とか、最近鶏が卵産まないんだな…とか。しけ続いてるから今日も漁出れてないな、とか。いつもそうやって生産者チームの動きを予測はしていますね。
あと、こっちにきて、「しけ」の意味に納得感が出てきたと思う。
東京にいるときも、築地とかで「しけが続いているから魚が高い」とかはよくある話なんだけれど、小松に来て実感値としてちゃんとわかった。目の前の海が荒れているし、船が出てないんだもん、そりゃ魚ないわ、って(笑)。値段も上がるわけですよね。」
最近の気になる食材を聞いたら天然のうなぎと白山市木滑地区のサフォーク羊。地域の食材を深く掘ることに余念のない亮介シェフ。食材を入り口に地域の食文化を深く知る彼のライフスタイルは、ある意味で料理人としてとてもストイックに見えるかもしれません。
しかし、お話を伺っているとその印象は、とにかく食が好き。料理はその手段で、食の奥深さを料理を通じて理解し、料理を通じて表現していく。それが彼の仕事を超えた暮らしそのものなのかもしれません。
ATAKA CAFE
11:00-21:00(ラストオーダー20:30頃)
水曜定休
石川県小松市安宅町タ140-4 安宅ビューテラス内
instagram: @ataka_cafe