本格的な暑さの中、いかがお過ごしでしょう?
夏の強い日差しはおいしい実りを私たちにもたらしてくれます。
『大土の、短い夏』と題した連続連載、前編では「大土のはじまり」と「方言」の関係について取り上げましたが、今回の後編では大土の「夏の実り」について、夏休みをふりかえる絵日記気分でお届けします。
金沢に暮らしながら平日は大学に、週末は加賀市の大土町に通っている“ましろ”が、大土で体験する貴重な暮らしをお届けする連載です。山中温泉最奥の地にある大土町の暮らしや季節の営みを、外から目線で切り取ってお伝えしていきます。
(自己紹介や大土町について詳しくはこちらの記事をご覧ください)
昭和中期の地図を見てみると、現在、大土で野菜を育てる畑のほぼすべてはお家が立っていたのだそう。
畑の周辺をよくみると家屋だった名残の基礎部分がチラリと見えます。かつて人々が暮らした土地ですくすく育つのはナスやトマト、ピーマンなどの夏野菜です。
今回とりあげるのは、その中でもひときわ目を引く、おおきな「大土太きゅうり」。大土の太きゅうりには、『ここにしかない秘密』が隠されています。
夏の実り
さて、近頃は暑さにうだる日々が続きますが、それはお山の上も同じ。
あまりに暑いので冷たい湧き水が癒やしとなっています。
そんな大土で夏に水分補給代わりのおやつとなっているのは、この地に受け継がれる「大土太きゅうり」です。
この太きゅうりは種や苗を買ってきて育てられたものではなく、毎年種を一つ一つ丁寧に集めて発芽と収穫を繰り返してきた、大土ならではの、大土にしかない野菜なのです。
集落唯一の住民、のぼさんこと二枚田昇さんのお母さまはご生前「いつからその種を受け継いできたのかわからない」と話していらしたのだとか。
つまり、この太きゅうりは100年以上前からずっと受け継がれてきたものだと考えられています。
大切な種を集落外に分け与えられることは良しとされず、もし持ち出して育てたとしても模様や色が本来のものとは異なってくるのだという、まさにこの地だけの伝統野菜です。
「野菜は苗や種を買ってきて育てるもの」とばかり思っていた私は、その種をつなぎ続ける大土の営みが、「食」という面から自然や文化といった貴重な財産を受け継いでいるように感じました。
かつてはネギなど他の作物も種が受け継がれてきたのだそうですが、種がうまくとれなかったり、取りそびれたりといったことがあり、現在も命を残し続けているのはこのきゅうりのみ。
もしかしたらいつか途絶えてしまうのかもしれない。
大切なその味を残すため、今はボランティアの力を借りて毎年の種取りや種まき、水やりなどが行われています。
私もいちボランティアではありますが、この素晴らしい営みを紡ぐお手伝いが少しでもできれば嬉しいなと思います。