春になると、ホタルイカを魚屋さんで目にしない日はありません。ホタルイカというと富山が有名ですが、ここ石川でも、福井でも、北陸では総じてよく食べられている模様です。そんな、今回は、北陸に春をもたらすホタルイカのエピソードをひとつ。
「地域の食文化を楽しむ暮らし」を提案する weave は、暮らしに根ざした食文化が今もなお色濃く残る石川県小松市を拠点に発信しているのですが、そんな小松の季節の味わいや暮らしの工夫で食文化を楽しむライフスタイルを、weave の編集長をしています瀬尾裕樹子(せのおゆきこ)が移住者だからこその目線で切り取り、この連載を通じてお届けしています。
2月頃だったでしょうか。石川育ちの夫と結婚する前に、東京でご飯を食べたときにホタルイカがお皿に乗って出てきて「うーむ、これはきっと兵庫県産あたりだな…。北陸のはもっと大きい。」とかなんとか言っていたことがありました。寿司屋とかレストランにでも行かない限りホタルイカ自体を食べる機会がほとんどない関東育ちの私は、「なんて嫌味なことを…。大きさを見ただけでそんな簡単にわかるの?気持ちよく食べさせて欲しい…。」なんて思ったものです(実際は一部口にも出していて、険悪になった気もする)。
それが、まさかの、石川に引っ越してきて2年半ほどになりますが、春になると日々お魚屋さんに通う度にホタルイカを見る機会に恵まれ(週に1度くらいは食べてもいる)、うっかり気づいたら夫と同じようなことを言うようになった自分にびっくりしているのです(笑)。
お魚屋さんには実際、2月頃からホタルイカが並び始めますが、はじめから北陸のものではありません。まして富山のものでもない。確かに何年か前の東京のレストランで夫が言ったように、比較的小ぶりな兵庫県産やそれよりも西のものがほとんど。それが次第に福井県さんのものが並ぶようになり、最終的には富山県産も時折入るようになる。そして大きさもどんどん大きくなっていく。この辺りで見かける小さいホタルイカは小指の先から第二関節ほどくらいのものもありますが、本当に大きい富山県産だと男の人の親指大くらいのものも見かけます。まさに、ホタルイカが対馬海流に乗ってどんどん成長し、栄養の宝庫と言われる富山湾に入ってさらに太る、その様子が魚屋さんの店頭で感じられるくらいなのです…!
この季節的な変化を身をもって実感すると、あのとき夫が言った言葉も決して無視はできません。
事実、わたしもこちらにいるとこんな風にホタルイカのサイズや産地の変化で季節を感じている自分がいるし、食卓の話題に上らない年はありません。夫の実家では、パッケージを剥がして並んだホタルイカを見るだけで、「お?今回は富山さんか?」などと、サイズで産地を当てるような会話もあるくらいでまさしく、“ホタルイカのサイズで産地がわかる民”。言葉は文化を纏ってこそ本当の意味を発揮するもの。食文化が変わってこそ理解できる言葉もあるものだなあ、と、つくづく感じている次第であります。
それでは今月はこの辺で。