こんにちは。
weave の編集長をしています瀬尾裕樹子(せのおゆきこ)です。
「地域の食文化を楽しむ暮らし」を提案する weave は、暮らしに根ざした食文化が今もなお色濃く残る石川県小松市を拠点に発信しているのですが、そんな小松の季節の味わいや暮らしの工夫で食文化を楽しむライフスタイルを、移住者だからこその目線で切り取り、このコラムを通じてお届けしていきます。
初回の今日は、石川県でも特に小松を含む南加賀エリアで食べられている郷土料理の「柿の葉ずし」に宿るこの地域の文化について。
実は、わたしが石川に住んでみて、まず驚いた料理のひとつが柿の葉ずしです。
「柿の葉ずし」と聞くと、奈良県や和歌山県、鳥取県、石川県などで有名な郷土料理ですが、関西方面の柿の葉ずしは柿の葉で全体を包み、整然と並んだ直方体が印象的。
携帯性にも優れた”あの”形が頭にあったのですが、石川県の柿の葉ずしは、柿の葉の上に具材と酢飯を乗せて押したオープン型。
わたしの地元、関東でも、東海道新幹線の駅などに奈良県のプロモーションでよく目にしてきた柿の葉ずしの“あの形”が印象にあったので、はじめて目にした時には、形の違いに本当にびっくりしました。
柿の葉の殺菌作用もあり持ち運びもできるイメージだったので、これじゃ持ち運べない!と思ったものです。
オープン型の柿の葉ずしの具材は煮たしいたけや油揚げ、鯖や鮭、鱒などの定番のお魚に加え、地域性が出るのは皮鯨(かわくじら)。音だけ聞いてカワクジラとは一体、どんな鯨の種類だろう?と思ったのですが、種類のことではなくコラーゲンたっぷりの鯨の皮のことだったのです。そのほとんどが脂肪でできていて、さっぱりとした酢飯との相性が抜群◎。
具材は柿の葉と酢飯のあいだに忍ばせるので、酢飯の表面は桜えびや青藻、紅生姜などのトッピングで彩りと目印をします。
具材の豪華さとお重やお皿に並んだ華やかな見た目が印象的なオープン型の石川の柿の葉ずしは、携帯用というよりはハレの日用。昔からお祭りや人の集まるときに食べるものだからこそ華やかな仕様ということ。
そもそも、加賀友禅にせよ九谷焼にせよ、この地域の伝統工芸に華やかな印象が多いのは、鬱々とした曇りが多いこの地域の気候とも関係があるとも言われるほど。
もしかしたら柿の葉ずしも霽れの日を、より色鮮やかに楽しもうとする工夫の現れだったのかもしれません。
今も霽れと褻のリズムが暮らしのそこかしこに感じられるこの地域だからこそ、霽れの日にはたっぷりと色鮮やかに楽しもうとする、土地に根付いた歴史や文化を感じさせる、ストーリーの詰まった郷土食だったのです。
小松出身の夫から結婚当初は、関東の底抜けに青い冬の空から一転、曇天で寒い毎日に鬱にならない?なんて冗談半分に心配されたましたが、郷に入っては郷に従え。こうした食卓の小さな工夫で霽れと褻をメリハリよく楽しもうとする精神性さえ身につければ年間降水日数と年間降水量がともに毎年上位にランクインする石川県に住んでいても、毎日を楽しく過ごせそうです。