今年は味噌を仕込みました。石川に来てからというもの、お酒にはじまり大根ずしにこんか漬けに、暮らしのいたるところで麹文化が根づいていることを日々感じています。その度に、「発酵県、石川」のイメージはどんどん増すばかり。
味噌づくりは家庭で行われる発酵食品のなかでも、スタイルの違いこそあれど地域を問わずに行われている、わりとポピュラーな発酵文化かもしれません。
それでも東京の狭いアパートでは味噌をつくるなんて発想は到底およばず、仕事ばかりでお料理だって大してしていなかったのだから、ところかわれば人間変わるものです。今回は、発酵県石川ではじまった私の手前味噌ライフのなかで知り得た、“手前”に隠された味のひみつについて。
「地域の食文化を楽しむ暮らし」を提案する weave は、暮らしに根ざした食文化が今もなお色濃く残る石川県小松市を拠点に発信しているのですが、そんな小松の季節の味わいや暮らしの工夫で食文化を楽しむライフスタイルを、weave の編集長をしています瀬尾裕樹子(せのおゆきこ)が移住者だからこその目線で切り取り、この連載を通じてお届けしています。
2年前に、引っ越したばかりで参加した味噌作りのワークショップは、農家さんが大きなミンサー(大豆を潰してくれるアレ)を持ってきてくださって、次から次へとゆだった大豆を潰してくれたので参加者はほぼ混ぜるだけ、で完成していたのですが、今回は、自分たちだけで仕込みのだからそうはいきません。
ミンサーを持っていなかったわたしたち。
フードプロセッサーがいいだろうか? すりこぎで潰すのがいいだろうか? トマトソースなどを滑らかに濾していくムーランがいいだろうか? と色々悩んだり試したりしましたが、行き着いたのは漬物用のビニール袋に大豆を入れて上からひたすら手で潰す方法。
なんともプリミティブではなかろうか。
なかなか綺麗に潰しきれずにつぶつぶしていましたが、それもご愛嬌。
夏を越して開封するのが今から楽しみでなりません。
さて、よく、自分で自分や自分のしたことを褒めることを「手前味噌」と言いますが、なんで自分で作った味噌がおいしいか、ご存知でしょうか。
愛情がたっぷりだから?
子供たちと一緒につくるから?
大変な思いをした分がそう感じさせるから?
きっと、どれも正解◎
でも、今回、色々と実験しながら作ってみてわかったことがあります。
それは、使う塩に対する大豆の量。
味噌は塩分を含んだ調味料ですから、どんなに大豆が好きでも、お味噌汁に入れられるお味噌の量はお味噌の塩分である程度決まってしまいます。
お豆の味がするお味噌汁が飲みたければ、そもそもお味噌を作る時点で大豆をたっぷり入れたら良いのです。
もちろん、大豆がおいしいことは大前提として重要ですが、そもそも量が入っていないのでは感じづらいのは当たり前。
塩分が強いと長く保存できるのと、味噌をケチって使えるので、
麹:大豆:塩
の比率を、昔は1:1:1で作ったそうですが、今回、わたしたちが作ったレシピは1:1:0.5。
つまり、かつてのレシピの半分の塩分しか使っていないのです。
手前味噌のいいところは、こうして自分たちの懐事情と舌事情に合わせて好みのレシピで作れること。
それからもうひとつ大事なのはしっかり寝かせること。
資本主義市場ではなかなかできないことかもしれませんが、わたしたち素人にできるのは待つことです。
じっくり時間を置くことで、しっかり発酵したおいしいお味噌ができるのです。
こうしてつくれば、手前味噌は大体おいしくなる。
こんなこと、言うまでもないって…?
きっと、お味噌をつくったことのある方なら、そう思われる方も多いでしょう。
けれど、作らなければわからないことはいっぱいあるのです。
現にわたしもそのひとり。
ついつい難しそう…、大変そう…、と思いがちな味噌作りですが、案外、大豆1kg仕込みくらい(4kg程度の味噌ができます)の少量なら一般家庭でもできるサイズ。思いたったが吉日。今年から手前味噌作り、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。
ところで皆さんは、「みそ、みそみそみそ、手前みそ〜♪」という、「てまえみそのうた」をご存知ですか?
発酵デザイナーの小倉ヒラクさんが作り、森本ユニさんが歌う、お味噌づくりのステップを歌ったたのしい歌です。これを聞けば、案外私にもできるかも…?と思うかも(笑)。