日の出の時刻も夏至に比べれば少しずつ遅くなってきましたね。
実家で暮らしていた頃、畑の手伝いをしていたのですが夏の昼間はとても暑く、朝の涼しい時間に野菜の収穫をしたり草刈りをします。まだ集落が寝静まっているころ、朝の5時には起きて畑に向かうのですが、実家の前に広がる海から昇る朝日がとても綺麗で清々しい気持ちになります。
季節によっては海の向こうに望む北アルプスや妙高の山々から朝日が昇るので、ぜひ皆様にも一度は見ていただきたい風景です(朝の方が空気が住んでおり、立山連峰や北アルプスの山々が綺麗に見えます)。
皆さんは朝の時間をどのように過ごしますか。散歩をしたり読書をしたりするのも、朝はゆっくりと寝て体を休めることも大切ですね。
そんな「朝」にも、能登地方で使われる方言があります。といっても僕も祖母が話す言葉を聞くくらいで、ほとんどは日常の中で聞くことがありません。
今回は「朝」と「夜」の言葉について写真と共に紹介します。
“コラム”あいの風”では能登在住で、趣味の写真を通して能登の風景などを発信している又木が、 季節ごとの能登の暮らしを地域に根付いた方言に注目して紹介していきます。 言葉はその土地に住む人々や地域社会の歴史に積み重ねられた生活文化。 僕が切り撮った能登の風景とそれにまつわる方言や暮らしの様子をお楽しみください!
能登のよあさ
「よあさは涼しくていいわいね。」
実家は農家なので夏場の朝はとても早く、夜明け頃には起きて畑の準備をします。祖母も起きて庭や畑の雑草を刈ったり一緒に畑に行って作業をするのですが、夜明け頃は涼しく作業もしやすいため、祖母が言った言葉です。
「よあさ」とは夜明けのこと。能登では夜明けの意味として使われるこの言葉も、場所が変わって四国(徳島や香川)では日が暮れて間もない宵の時間(夜が浅い=よあさ)の言葉として用いられるようで、地域ごとで言葉の意味が違ってくるのも面白いですね。
能登のよさる
「よさるはまんで(=とっても)星が綺麗やの」
能登の夜は街灯りが少なく肉眼でも綺麗な天の川を見ることができます。元々僕は星空の写真を撮りたくてカメラを始めたのですが、写真を見せると祖母は嬉しそうに言いました。
この「よさる(またはよさり)」は夜のこと。調べると古語として昔から使われていた言葉で、古典の源氏物語や竹取物語の中でも出てきます。漢字では「夜去る」と書き、昔は「去る」という言葉には「来る」や「巡ってくる」の意味もありました。夜去るとは夜がやって来る頃、つまり夜として使われていたようです。昔の時代は来ると去るが同じ意味を持っていたのが不思議ですね。
時代の中で変化した言葉
この「よさる」という言葉について調べる中で、面白いことが分かりました。
それは「よさる」自体が時代の中で変化した言葉で、元々は「夜去り方(よさりがた)」という言葉が短縮された形のようです。そう言えば、祖母は朝のことを「あさがた」と言ったり、夜のことを「よさがた」と言うこともあったなと思い出されます。また、同じように夕方を意味する「夕さり」「夕さりつ方」と言う言葉もあるようです。
最近はほとんど使われていない言葉たち。僕自身、祖母や年配の方との会話でしか恐らく今後も聞くことはないだろうと思います。皆さんの地域ではどのような言葉として残っているのでしょうか。
このコラムを始めて、方言には奥ゆかしさのようなものがあり興味深く感じています。
時代が変わる中で残したい言葉がたくさんあります。「よさるになったら飲みに行かんかいね(夜になったら飲みに行こうね)」なんて言ったら「よさるって何?」と聞き返されそうですが、まずは口に出してみることが大切なことなのかもしれません。
文・写真:又木実信