本格的に暑くなってきて、能登では早くもセミの鳴き声が聞こえてきます。皆さんが暮らしている地域ではどうでしょうか。
前回のコラムでは「はかいく(作業が進む)」という方言を紹介しましたが、あの後実は輪島市にある千枚田で田植えをしてきました。 久しぶりの田植えでしたが、裸足になって入る田んぼはひんやりと気持ちよく、千枚田は海の真横にあるため風が心地よいです。
地元のおばあちゃんや他の参加者の方々と「まんではかいくね〜」と言いながら田植えをしていました。稲の成長が楽しみです!
6月と言えば、能登ではとある植物の葉っぱが綺麗な季節ですが、能登の植物と言えば何かお分かりになるでしょうか。
そう、”あて”の木です!
石川県の県木としても指定されていることはご存知でしたか。実はこのあては能登の特産で昭和41年に県木として認定されました。
今回はそんな”あて”について紹介します。
“コラム”あいの風”では能登在住で、趣味の写真を通して能登の風景などを発信している又木が、 季節ごとの能登の暮らしを地域に根付いた方言に注目して紹介していきます。 言葉はその土地に住む人々や地域社会の歴史に積み重ねられた生活文化。 僕が切り撮った能登の風景とそれにまつわる方言や暮らしの様子をお楽しみください!
6月の方言あて
石川県内の方はあてが方言なのか?!と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、あては”ヒバ”や”アスナロ”のことです。 どうやら、あての漢字”档”の字は能登固有のもののようでした。
この”あて”の語源は、昔の奥州から移植されて、能登の気候風土に”当たった”からとも言われていますが、正式なものでは無いそうです。
元祖あての木
能登の輪島市(旧門前町)に、元祖あてと呼ばれる大きなあての木が2本あります。その高さは2本とも約30mで幹周4mと3.6m、樹齢は450年以上と推定されていて県内では最も古いあての木です。
そして、この2本の木にはとある言い伝えがあります。
と言うのも、源義経を養育したことでも知られる藤原秀衡、その三男の泉三郎忠衡が1189年に奥州平泉より持って来たものと言われています。
他にも、1570~90年頃に泉家19代の兵右衞門が東北地方から苗木を持ってきたとも言われており、とても歴史のロマンを感じさせられますね!
生活に寄り添うあての木
あての木は、現在では住宅用の木材として使用されたり、工芸品である輪島塗の素地としても使われています。あての木の性質として耐水性にとても優れているようです。
輪島塗の存在が歴史の中から認知できるのは、室町時代からと考えられていて、輪島市内にある重蔵神社の棟札(1476年)に輪島塗の塗師の名前が確認されています。 輪島塗の素材としても使われていたあてですが、人々の生活を支え能登にも普及し、今日では石川県の県木として多くの人に親しまれているのではないでしょうか。
今回、季節の方言を考える中で、”あて”は普通にある一般的な言葉だと思っていたのですが、調べる中で方言なのだと知りました。
実は自分が何気なく普段から使っている言葉の中にも、方言はあるのかもしれませんね。ぜひ、皆さんも身近にある方言を探してみてはいかがでしょうか。
今月もお読みくださり、ありがとうございました!
文・写真:又木実信