まだまだ暑い日が続くかと思いきや、台風14号が過ぎた後、急に涼しくなったと感じるのは僕だけでしょうか。
秋晴れの空が青々と澄み渡り、里山の風景と合わさってとても気持ちの良い景色に思わず出かけたくなりますね。
そんなよく晴れたある日に、能登半島の上部に位置する輪島市へと海沿いをドライブしてきました。
青い海、青い空、緑が少し深く感じる秋の里山の風景、そしてなんと言ってもこの時期によく見られる光景が稲刈りではないでしょうか。
黄金色に輝く稲穂の海をかき分け、地元の農家さんが作業をする様子が自分にはどこか懐かしく温かく感じます。
さて、今日はそんな稲刈りについての言葉の紹介です。
読者の皆様は、小学生の頃の学校行事で田植えや稲刈りをされたことはあるでしょうか。
能登の学校ではほとんどの場所で田植えや稲刈りなどの体験学習を行っていて、5月頃に植えた稲が大きくなり稲刈りを迎える9月、手に鎌を持ちみんなで1列になって稲穂を刈ってはかき分け進みます。僕の母校では稲刈りの様子を歌と踊りにしたものもあり運動会でみんなで踊ることになっていました。
“コラム”あいの風”では能登在住で、趣味の写真を通して能登の風景などを発信している又木が、 季節ごとの能登の暮らしを地域に根付いた方言に注目して紹介していきます。 言葉はその土地に住む人々や地域社会の歴史に積み重ねられた生活文化。 僕が切り撮った能登の風景とそれにまつわる方言や暮らしの様子をお楽しみください!
はざ
稲刈りをする頃、田舎の地域へいくと田んぼの中に竹で組んだ棚のようなものを見たことがある方はいらっしゃるでしょうか。この棚のことを稲架と書いて「はざ」と読みます。方言というよりかは全国の多くの地域で使用されていて、はざ掛け、はさ掛けなど呼ぶところもあるようです。それでも田舎の地域以外ではなかなか見なくなったのではないでしょうか。
はざの語源は干場(ほしば)から、「はざば」となり「干す」、「乾かす」の意味を持つものと考えられています。
はざの役割
では、この「はざ」は何の為にあるのでしょうか。
使い方としては刈り取った稲をはざにかけて、天日干しする為に使用します。この刈り取った稲を干す作業を「はざ干し」と言って伝統的な乾燥技法の1つで、能登の秋の風景を代表する風景です。
はざには竹の他にも木を使う所もありますが、作り方としては3~5mほどの縦棒を立ててそこに横棒を組み合わせていきます。
コンバインのような大型農機が入ることができない小さな田んぼや千枚田のような棚田では、稲を刈ったすぐそばではざ干しを行います。
はざ干しをすると何が良いのか
このはざ干しが良いとされるところは、
①お米を適正な水分量にすること
②乾燥機より割粒が少なくなる
③養分がお米に集まる
④旨みが増す
などが挙げられます。ただ、旨みが増すことについては立証はされておらず、刈り取った稲をそのまま束にして干すのでお米まで養分が届き、天日干しすることでアミノ酸が増えるという考え方もあるようですがはっきりとした理由ではないようです。
無くなりゆくはざ干しの風景
そうした理由で近年はまた注目を受ける向きもあり、天日干しをすることで付加価値を高め消費者に届ける農家さんも能登の中にはいらっしゃいます。
それでも、天日干しでゆっくり乾かすことはとても労力と時間がかかります。その他にも高齢化による農業の担い手不足などもありはざ干しの風景はどんどん減少しています。
この日訪れた千枚田でもはざ干しの作業をされていました。
千枚田のような棚田の小さな田んぼでは小型の農機を入れて稲刈りを行います。それを束にしてはざにかけていきます。この日は2名の農家さんが作業を行っていました。
暮らしの場としての千枚田
今では能登を代表する観光地の千枚田ですが、元々千枚田が作られた背景には、江戸時代に年貢を納めながらも農民たちが何とか命をつなぐために耕作し出来上がったものだという歴史があります。素晴らしい景色の中の地元の人たちにとっては当たり前な暮らしの風景に、実は先人たちの厳しい暮らしがあって、自分たちはそうした先人たちの暮らしの営みの上に生きていることを忘れずにいたいと改めて感じました。
そんな千枚田も担い手不足により維持管理が難しい状況もあるようですが、輪島市や千枚田愛耕会が保全に向けた取り組みも行っており、ぜひ田植えや稲刈り体験への参加を通して農業文化に触れてみてはいかがでしょうか。
ギャラリー
文・写真:又木実信